スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村

サトルカゲユウ 幕間の一『サトリの少女』

 愛情を過分に受けて育った子供だった。
 幼少期のココロ・ニルーファは、里親から惜しみなく愛されて成長した。生みの親は行方知れずだったが、そんなことは問題でないくらい大切にされた。
 その甲斐あってか、ココロはすくすくと大きくなった。誰からも好かれる元気で明るい子供だった。

 そこそこに発展した都会とも田舎とも呼べない町で、ココロは八歳までを里親の下で過ごした。
 転機が訪れたのは、物心ついてしばらく経った頃。ココロは自分が他の人たちと違っていることに気づく。
 ――心が読める。
 その異能に気づいたとき、ココロは有頂天になった。自分の凄さを誰かに知ってもらいたくてたまらなかった。
「ねーね。お母さん。あたしね、みんなの考えてることがわかるんだよ」
 最初に話した相手は育ての母だった。褒めてもらえるだろうと思って打ち明けた。
「あらすごい。ココロはきっと神様に愛されているのね」
 褒め称えながらも、ココロの母親は娘の言葉を信じていなかった。幼い子供にありがちな思い込み。神秘的なものへの憧れだと解釈し、深く考えようとはしなかった。
 心読みの力を持つココロは、母が自分の言葉を問題にしていないとすぐ気づいた。相手にしてもらえないことが不満だった。
 どうすれば信じてもらえるのか。ココロは躍起になって思考をめぐらせた。そしてとうとう行動に出た。
「ねえ、お母さん。あたしね、心が読めるの」
「またその話?」
「ほんとにほんとだよ。みんなが隠してること、たくさん知っちゃったんだから」
「例えばどんな?」
「雑貨屋のカタリーナさんはお店のお金を『ちゃくふく』してて、町長さんは町役場の人に『ぼうりょく』してる。近所のダミオおじさんは『あきす』の『じょうしゅうはん』。よく一緒に遊ぶカミラちゃんは、お家の財布からお金を盗んだことがあるって……」
「駄目よココロ。人様のことをそんな風に言っちゃ」
 いつもココロをあやすときの口調で母が諭す。その態度は、ますますココロをむきにさせた。
「だってホントだもん。お母さんの秘密も知ってるよ。私に隠れて男の人と会ってるでしょ」
「え……?」
「名前もわかるよ。バリィっていう人。その人とたまに会ってるんでしょ。『ふりん』っていうのしてるんでしょ」
 幼い子供だった。その行動がどんな結果をもたらすか、まるで予測できていなかった。
「――――っ?」
 ココロは思わず息を呑んだ。
 母の表情が豹変していた。恐れと拒絶の入り混じった、醜悪な面持ちに。
 心が叫んでいた。娘に対して、警戒の声を。
 心読みの力を持つココロは、その思考をまともに受け止めてしまった。
 しかしココロを恐怖に陥らせたのは、母親の思考ではなくその顔色だった。まるで怪物を見るかのような、恐ろしい目。それまで母の優しい顔しか見ることがなかったココロにとって、その顔は忘れられないものとなった。

 現在でも、まぶたの裏に焼きついている。まだ子供だったその頃の記憶が、ココロに恐怖を与え続けている。
 ――『ふりん』っていうのしてるんでしょ。
 そう言った。直後に見せられた母の顔が――――心の声が――。今もずっと。
 こんな能力を持って生まれた自分は早くに死ぬべきだと。ココロはそう感じている。フィーナやロゼと話していたときでさえも。
 曲がった背筋。
 伸ばした前髪。
 伏目がちな態度。
 その全てが、他人と目を合わせないように始めたもの。視線が合えば心を読んでしまう。心を読めば、かつて味わった恐怖がフラッシュバックする。

 ――他人の秘密を養母に暴露してしまったココロ。それから程なくして、近隣の人間関係に変化が生じた。雑貨屋のカタリーナは町を追い出され、町長は皆から冷たい視線を浴び、ダミオは失踪、カミラは親に叱られたという。
 ココロの養母が真偽を計ろうとしたため、様々な犯罪行為が白日の下にさらされた。その結果だった。
 全てがココロの言ったとおりだった。ココロが異能を持つという噂は、瞬く間に町中へと知れ渡った。
 ココロの里親にとって誤算だったのは、ニルーファ一家全体が村八分の状態になってしまったこと。ココロがなにを吹き込んだかわからないため、皆に警戒されてしまったのである。
 だがそれも、ココロ本人が受けた仕打ちと比較すればどうということはない。異能を恐れられたココロは、誰からも避けられるようになってしまった。そして。
「ねえ。大丈夫だよ。もう心は読まないから。目を合わさないと読めないから。だから、ねえ……」
 なにを訴えても返事はない。代わりに石の塊が投げられ、それがココロの額に命中した。
「あっつ……!」
 ココロは頭を押さえた。指の隙間からドロリと血が流れ落ち、視界を赤く染め上げていった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう心は読まないから。お願いします。許してください」
 謝罪しても懇願しても許されることはない。なにを読まれるかわからないから。なにを知られているかわからないから。
 嫌がらせや投石は、それからも度々幼いココロを虐げた。
 ――黙っていても痛みは襲ってくる。しばらくは耐えていたが、すぐに限界は訪れた。
 ある日ココロは能力の実験を行うことにした。成功すれば、もう痛みに耐える必要はなくなる。
 左手を頭に当てて、そっと意識を集中させる。それまで『読み取る』だけだった能力を、放出する力に変えて。その手に赤い霊光が宿り、ココロの脳を焼いた。
 ――心当ては心充て。
 空っぽの心を満たすために、幼い日のココロが編み出した精神干渉能力。
 心当てによる施術が終わり、ココロは家の物置からハンマーを持ち出した。左手の小指をテーブルに置き、その上から躊躇なく鋼鉄のハンマーを振り下ろす。
 ゴツッと鈍い音がして、ココロの指が鋼鉄の下敷きになった。叩きつけたハンマーの下から、真っ赤な鮮血が染み出してくる。
 その血をしばらく無感情に見つめ、ココロは痛みの到来を待った。しかし、いくら待っても激痛は襲ってこない。
「あは。痛くない……」
 ココロの顔に笑みがにじんだ。それは初めうっすらとした笑いだったが、秒が進むにつれ大きく広がっていった。
「痛くない! なにも感じない! やったやったぁ! これでもう叩かれても、石ぶつけられても、全っ然っ痛くない! あは、あはははははっ!」
 ついに。やった。
 痛みを消し去ることに成功したのだ。もうなにも恐れることはない。ココロは恐怖の元凶を克服した。
 そのときだった。ココロは不意に、母が見せたあの表情を思い出した。まるで化け物を見るかのような、恐怖と拒絶の入り混じったあの顔つきを。
 瞬間、ココロの表情が凍りついた。頬をゆるませたまま、けれど笑顔ではない。
 脈打つ心臓の感覚が、ひどく不愉快だった。言い知れない焦燥感が脳裏に去来する。安心できたはずなのに、なぜだか落ち着かない。
 血に濡れた左手で胸の辺りをつかみ、ココロは不快感の原因を探ろうとした。
 痛みは感じない。痛みは感じていない、はずなのだ。それなのに――――。
「…………あれ。なんでだろ。痛くないはずなのに……。痛いの、治まんない…………」
 服の布地が血で染まっていく。ココロの小指からは、今もまだ血が流れ続けていた。
 広がっていく赤い染みを見つめて、ココロは疑問に思った。この血はどこから出てきているのだろう――と。
 疑うまでもなく血液の出どころは小指である。しかし、ココロにはわからなかった。
 張り裂けそうなほどの激しい痛みは、小指から来ているわけではない。痛みは、全く別の箇所から――……。

 その日を境に、ココロの顔から笑顔が失われた。
 笑った顔だけではない。感情そのものが消えかけているようだった。いつも無表情でいるようになり、たまに驚いたり怒った顔を見せる程度。
 ――ココロは町を離れることにした。誰も知らない場所へ行き、そのまま消えてしまおうと思った。
 紆余曲折があり、やがて秘境マズルガフへと流れ着いた。そこから彼女の――偽勇者の物語が幕を開けることとなったのである。


・続きを読む

 
関連記事
web拍手 by FC2 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村

テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

最新記事
最新コメント
カテゴリ
カウンター
ランキング

FC2Blog Ranking

プロフィール

うにのひと

Author:うにのひと
覚えたての言葉を使いたくてしょうがないチンパン人。
見に来てくださる方に千の感謝を!

リンク
FC2拍手ランキング
フリーエリア
PVアクセスランキング参加中!
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
FC2拍手ランキング
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。