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サトルカゲユウ エピローグ

 ――かくして。
 偽勇者の冒険は終わりを迎え、世界に平和が訪れた。
 魔王メビスが死んだという一報を受け、魔族らは連邦国に投降。終戦の運びとなった。
 そして、魔王を倒した勇者ココロ・ニルーファの名は、誰にも語られることのないまま露と消えた。


 それは勇者となった少女が末期に見た幻夢か。悪夢か。
 遠い宇宙の果て。無限の青空だけが広がる悠久の場所に、ココロは一人立ち尽くしていた。
 立っている――のかどうかはココロ自身にも判断がつかない。上下の感覚はあるが、踏みしめている場所は大地でなく空。浮いているようだが、しかし浮遊感はない。
「ココロちゃん」
 誰かに呼ばれてココロは振り返った。旅の始まりからずっと追い求めてきた顔が、そこにあった。
「頑張ったね。ココロちゃん。本当に、よく頑張ったよ……」
 そこに立っていたのはフィーナだった。目尻に涙を浮かべ、笑顔とも泣き顔ともつかない表情でココロだけを見つめている。
 マズルガフで死別して以来の再会に、ココロは表情を和らげた。
「……疲れたッス」
 つぶやいて、フィーナの目を見つめる。相手が霊体だからか、この場所が現世でないためか、心読みの能力は発動しない。ココロはむしろ、安心してフィーナと目を合わせることができた。
「戦いは、終わったんスね」
 それは皮肉にも、予言書に記されたとおりの結末だった。勇者と魔王の相討ち。ココロが本物でなかったにもかかわらず。
 偽者のココロにとって、その結果は上出来と言えるものだった。命尽き果てるまでメビスと戦い、そして魔王打倒を成し遂げた。
 ココロは疲れていた。疲れてはいるが、それは達成感に満ちた心地良い疲れだった。
「行こっか」
 フィーナが言った。
「どこに?」
 当然に疑問をココロが返す。しかし、聞かなくとも直感的に答えはわかっていた。
「天国。迎えに来たんだよ、私」
 想像通りの答えが返ってきて、ココロ小さくうなずいた。
(ココロちゃん。今までお友達でいてくれてありがとう)
 そのとき不意に、ココロの脳裏を思い出がよぎった。
 マズルガフを出たあの日。フィーナと交わした最後のやり取りを、ココロは鮮明に思い出していた。
(――――あなたは逃げて。私の分も生きて)
 あのときと同じ。目の前のフィーナは、どこか悲しげで辛そうだった。
 その表情を見て、ココロはある考えに行き当たった。
「ひょっとして、あーし……しくじったんスか?」
 ココロの問いに、フィーナは目を逸らした。「あちゃあ」とつぶやいて、ココロが手の平で顔を押さえる。
「――そう。魔王はまだ生きてる。ココロちゃんは負けたの」
 遠慮がちにフィーナが言って、ココロの顔を覗き込んだ。
「すぐ言えなくてごめんね。でも、魔王が倒れてないって話したら、ココロちゃんガッカリするんじゃないかと思って……」
「ガッカリなんてもんじゃないッスよ。はぁ……。あんだけ頑張ったのに、マジッスか」
 ココロは肩を落とした。どんよりと暗いムードが漂う。
「んーで、フィーナちゃんはあーしを慰めに来てくれたッスか?」
 ココロが顔を上げる。その問いに、フィーナはポンと手を打った。
「えっとね、選んでもらいに来たの。ココロちゃんがこれからどうしたいか」
「選ぶ?」
「私と一緒に天国へ行くか、生まれ変わって違う人生を始めたいか」
 突きつけられた選択に、ココロは戸惑いを覚えた。
「私が天の使いっぽい人からお奨めするよう言われたのは天国行き。魂の国で、永遠の幸せと安らぎを得られるの。もう二度と、何かを失うことも絶望もしない」
 どこかに書かれた説明文を朗読するような口調で、フィーナが言った。『幸せ』を口にしながら、その声に熱はこもらない。
 ココロは押し黙った。口を閉ざし、これまで歩んできた道のりを思い返す。
 多くの悲しみがあった。多くの失望があった。痛みを味わい、未来への不安に怯えてきた。笑うことすらできなくなってしまうほどに。
「フィーナちゃん」
 ココロは答えを決めた。力強く目を見開き、フィーナに向けて口を開く。
「あーしは自分の人生が大嫌いッス。この世で一番大嫌いッス。お母さんの元を離れたときも、フィーナちゃんを守れなかったときも、メビスにまるで歯が立たなかったときも、自分で自分をぶん殴ってやりたいと思ったッス。生きてきたことを死ぬほど後悔してきたッス」
「じゃあやっぱり……」
「まだまだお断りッスね、天国行きは。もう一度人生をやりたいッス」
 ココロの意外な言葉に、フィーナはぽかんと口を開けた。
「……また絶望するかもしれない。今度こそ立ち直れないかもしれない。それでもココロちゃんは、人であることを望むの?」
 ココロは幾度となく自分自身を呪ってきた。人生をやり直したとして、また同じ痛みを味わうだけかもしれない。けれど――。
「賢くて偉い人たちはみんなこう言うッス。人生に意味なんかない……って。そういう人たちだったら、迷わず天国行きを選ぶんだろうなぁ」
 意味のないことを繰り返すはずがない。意味のないことに執着するはずがない。ならばためらわず天国へ向かうだろう。
 しかしココロは少女である。十八歳である。無意味だったと断ずるには、あまりにも幼い。
「あーしは天国行きを蹴ってでも、人として生きたい。いろんなものを……この手でつかみ取りたい。抱きしめたい。愛したい。守りたい。なーんにも叶わないかもしれないッスけど、それでも」
 守れなかった想いを。約束を。今度こそ守りたい。その先に何が待ち受けているか、わからなかったとしても。
「こう考えるのは、あーしが未熟だからなんだろうな。悟りが開けてりゃ、俗世の欲なんざに惑わされはしないはずッスから」
 人生に意味がないという言葉は正しいのだと、ココロはそう思っている。その思想に至った人間が天国へ往けるのだと。
 しかし同時にこうも思う。その諦念は人間らしくないと。人間はもっと卑怯で、愚かで、気楽に、滑稽に、楽しく、せせこましく、のんびりと――。
 かくあるべきだと思っている。答えを出すばかりが人の生き方ではない。
 人はすぐに驕り昂ぶると、ロゼは言った。
 改悛が必要なのではないかと、マドゥは言った。
 間違えるのだ。人は。どれほど強い確信に満ちていたとしても。
「あーしは自分が大嫌いだ。フィーナちゃんを守れなかった自分の生き様が、死ぬほど大嫌いッス。それでも――天から与えられる永遠の幸せより、人としての生きがいを求めたいと思う。このエゴが……渇望が、あーしの……あーしにとっての、人生の意味ってやつなのさ、きっと」
「生きたいんだね。ココロちゃんは」
「うん。あーしはまだ生きたい。生きてあいつを……魔王メビスを、思い切りぶん殴ってやりたいッス」
 ココロは軽く拳を握り、小さく前へと突き出した。フィーナがそれを手の平で受け止め、少し残念そうに笑う。
「またしばらく、お別れだね」
 フィーナがくるりと背を向けた。片手を小さく上げ、「もう行かなきゃ」と言って何処かへ歩いていく。
「……なんで」
 立ち去ろうとするフィーナにココロが声をかけた。
「なんであーしを生かしたッスか。あーしはただ、フィーナちゃんが生きててくれれば、それで十分だったのに。普通の女の子として幸せになってくれれば、それで良かったのに」
 マズルガフが魔族に襲撃されたとき、フィーナはその身を犠牲にしてまで、ココロを集落から逃がそうとした。
 ココロは未だその一件に納得できていなかった。自分の代わりにフィーナが死ぬことなど、あってはならないと思っていた。
「同じだよ……」
 フィーナが足を止めた。ココロに背を向けたまま、ためらいがちに口を開く。
「私の幸せを願ってくれたココロちゃんに、私もなにかしてあげたかった。……ココロちゃんには、幸せをつかんでもらいたかった」
 フィーナもまた同じだった。自分のためにココロが命を落とすことなど、到底認められることではなかったのだ。
「ココロちゃんの笑った顔……見たかったな……」
 フィーナの背中が震えた。顔は見えなくとも、泣いているのだとわかった。
「生きてね、ココロちゃん。私が枷を外してあげるから」
 フィーナが言うと同時、ココロの左手が白い光に包まれた。
 その光こそ、心当ての最終段階。ココロ・ニルーファが心読みの力を持って生まれた意味。
 最後の希望。
 最後の祈り――。


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