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サトルカゲユウ エピローグの2

 ――――それから、どれだけの月日が経ったのか。

 マズルガフ跡地を見下ろす小高い丘で、静かに寝息を立てる少女たちの姿があった。
 ココロとロゼ。生い茂った草原の上で、重なって眠る二人。
 そこはココロがよく座学をすっぽかすために来ていた場所だった。風がよく通り、日差しは直接当たらない。春から初夏にかけては昼寝するのに最適な休息所である。
 村人はいない。襲撃された際の生き残りは十数人もいたが、皆どこかの町へ移住してしまった。村の人が離れてしまったことをココロは少し寂しく思ったが、無事だった人がいるという事実をまずは喜ぶことにした。旅の最中ずっと、マズルガフ住人はほぼ全員亡くなったとばかり思っていたのだ。
「すぅ……」
 ロゼは後頭部をココロの胸にうずめ、すやすやと寝入っている。彼女もまたあらゆる束縛から解放され、悠々自適な日々を送っていた。表情は安らかで、かつて漂わせていた威圧的な雰囲気が嘘のようである。
 一方、ロゼを抱くココロの左手にはまだ包帯が巻かれていた。酷使した左の握力だけは回復しない。しかしそれ以外の部位はほぼ完治し、とりあえず不自由のない生活を送れている。
 元々痛みに強い体質だったのか。無意識の内に痛覚を感じすぎないよう調整してしまったのか。
 並の精神力なら、痛みでまともには眠れなかっただろう。それほどの大怪我にココロは耐えた。耐えたというより、ほぼずっと寝ていた。ある意味彼女にとって幸せな日々だったかもしれない。
「んん……」
 風下の方向に人影が立った。姿を隠す気はない様子だったが、足音は全く聞こえなかった。柔らかな青草だけを踏みしめ、昼寝中のココロとロゼに近づいていく。
 音もなく近づいてきた来訪者の気配に、ココロの危機感知力が反応した。即座に跳ね起きられるよう力を溜めつつ、影の立つ方向へと視線を走らせ――。
「……普通に登場できないもんスかね」
 影の正体を見極め、ココロは脱力した。視線の先に立っていたのは、ロゼの従者フュラーだった。ココロに小さく頭を下げ、ロゼに歩み寄っていく。
「お嬢様。報告に参りました」
 固い声でフュラーが言った。ロゼは相変わらず穏やかに寝息を立てている。
「ロゼちゃん。呼ばれているッスよ」
 柔らかな赤い巻き毛を指先でもてあそび、ロゼを起こそうと試みる。
 ロゼはうっすらと目を開け、フュラーとココロを交互に見比べた。それからゆっくりと体を起こし、芝生の上に座り込んだ。
「いい寝心地だったわ」
「そりゃどーもッス」
 ロゼと真っ直ぐ目を合わせ、ココロは微笑んだ。
 心読みの能力は発動していない。限界以上の力を使ったためか、メビスの精神攻撃を受けた影響からか。決戦後日、ココロは全ての異能を失ってしまった。
 能力をなくして以来、ココロは以前よりも少しだけ明るくなった。消えかけていた表情はにわかに変化を見せ始め、時おり笑顔も見せるようになった。
「報告を聞くわ」
 フュラーに向けてロゼが言った。
「報告します。商会の解体、滞りなく完了しました」
「お父様は?」
「王制撤廃の機運をいち早く読み、流れに乗じて多額の資産を得たようです。今後もさらに活動規模を拡大していくかと思われます」
「懲りない人ね。元気そうでなによりだけど」
 妙に嬉しそうな顔でロゼがつぶやく。嬉しそうだが優しくはない。「いい獲物を見つけた」とでも言いたげな、攻撃力の高い微笑みだった。
「フュラー。私はそろそろ都に戻るわ。新しいことを始めたいの。準備して頂戴」
「承知いたしました」
「ああそれと、戻ったら買う物があるから貴方も付き合いなさい」
 思いついたようにロゼが言って、フュラーは不思議そうに瞬きをした。
「必要な物がございましたら、買い揃えて参りますが……」
「私は一緒に買い物がしたいと言ったのよ。二度言わせないで」
 ツンとすました顔でロゼが言い放つ。
「……承知いたしました」
 フュラーが初めて口元をほころばせた。ココロはその様子を興味深げに見つめた。
 今をもってロゼとフュラーの間柄は読みきれない部分が多い。主と従者のようであり、兄妹のようでもある。しかし、いずれにしても、関係は良好のようだった。
「おとーさんと関係を修復する気はないんスか?」
 ココロの問いかけに対し、ロゼは上品な嬌笑を返した。洗練されており、それでいて悪意に満ちている。変わらないロゼの微笑みだった。
「するわけないでしょ。……まあでも、また会ったら肩くらいは揉んであげましょうか」
「ツンケンしてないで帰省すりゃいいのに」
 時代は大きく動き始めていた。
 ――魔王の打倒からわずか三ヵ月後。王都で無血革命が成り、立ち遅れた王侯貴族らは成す術もなく政権を明け渡した。
 貴族の中でも判断力に秀でた者らは、有識者としての立場を利用し、官僚の座に収まることとなった。しかし国王を始めとして多くの貴族は、その好機すら見出せなかった。
 うろたえる国王や貴族に対し、ロゼは「諦めて利益の確保に努めなさい」とだけアドバイスした。その助言を素直に聞き入れていれば、数代は遊んで暮らせるだけの金銭を手にできただろう。しかし彼らは……。
 新制国家の初代元首となるべく動いてきたロゼだったが、魔王打倒の後は傷ついたココロの面倒を見るため都から離れた。
 ロゼは運営していた商会を解体し、財産のほとんどを新制国家の社会福祉に充てた。そうして、憑き物が落ちたように穏やかな生活を送り始めた。
 一連の行動は、ロゼが成り上がることに興味をなくしてしまったため。それがかえって彼女の名声を高める要因ともなった。
 市民たちの間では、ロゼが革命により王位を簒奪しようとしているのではないか――という疑いの声もあった。奇しくも彼女の心変わりは、そうした懐疑者たちを黙らせる結果となった。
「あれ? フュラーさん?」
「もう行ってしまったわ」
 わずかな時間目を離した隙に、フュラーの姿は消え失せていた。神出鬼没な彼の居場所は、ココロにもつかみきれない。ロゼの眼力をもってすれば見破れるらしいが。
「でも、よかったんスかねー。せっかくロゼちゃんがあれこれ根回ししてきたのに、全然関係ない人が元首になったりして……。それにせっかく貯めてきたお金も、戦災被害者らの救済に使ったって……」
「私は指導者としての責務を放棄したわ。せめてもの償いとして、私財を投げ打つくらいのことはしてあげないとね」
「責務って、なにかあるんスか」
「高貴な人間にはあるのよ。民衆の期待に応えなければならないという重大な責任が」
 しばらく経てば選挙が行われるが、当面ロゼの出馬する予定はない。ひとまずロゼは、政治経済の世界から離れる方針を固めていた。
「私も再出発ね。歩き出さなければあっという間に年老いてしまうわ。特にココロさんは……」
 魔王との決戦から三ヵ月。ココロは毎日ひたすらに惰眠を喰らい続けていた。
 一日の半分以上を寝て過ごす。勇者として旅を始める以前、彼女本来のライフスタイル。
 初めこそ微笑ましく思っていたロゼだったが、三ヵ月経っても変わらないココロの怠けぶりに焦燥を覚え始めていた。
「ほら立って。シャンとして。猫背直しなさいよ。都に帰るわよ、ココロさん」
「ええぇぇ……?」
 露骨に不満げな声を上げ、ココロは表情をゆがめた。
「あーしは今のダラダラした生活が性に合ってるッス。都であくせく働くのは嫌ッス。働かずに食うメシの味は素晴らしいッス」
「…………」
「泥のように過ごすッス。安逸を貪るッス。ニート最高うぇーい」
 ロゼは「ふう」とため息をつき、こめかみを押さえた。
 魔王を追っていた頃の熱はどこへやら。あまりの落差に、見ている側の方が情けなさを覚えるほどである。
「んーでも、体も良くなったことだし、お母さんの様子でも見に行くとするッスかね。お金持ってないからちょい心配ッスけど」
「貴女、なにかやりたい仕事はないの?」
「喫茶店のウエイトレスさんがいいッス」
「そう……」
 ――似合わない。という言葉を、ロゼは呑み込んだ。怠け者のココロを動かすには、好きなことをやらせておくしかない。
「……わかったわ。ウエイトレスでもメイドでもベアーガールでも何でもさせてあげるから、ついてきなさい」
「なんで熊? そこはベアーじゃなくてバニーガールじゃないッスか?」
「貴女に兎が似合うわけないでしょう。熊で十分よ」
「そりゃあんまりッス」
 ココロはふてくされて頭を掻いた。その様子を見て、ロゼが嬉しそうに微笑む。
「いずれにしても、そのままでは駄目ね。私の隣に立つんだもの。それなりの物を着てもらわないと。髪も少し上げた方が可愛いわ」
 ロゼはココロの髪に両手の指を差し込み、ゆっくり梳いて前髪を上げた。
「おおっ。なんか懐かしいッス」
 人に髪を梳いてもらうのは、旅立つ前フィーナにしてもらって以来。隠れていた双眸があらわとなり、ココロはまぶしさに目を細めた。
「出発は明日にしましょうか。準備しておいてね、ココロさん」
 ロゼが言って、くるりときびすを返した。
「待ってくださいッス」
 颯爽と歩き出すロゼの背中を見て、ココロがようやく重い腰を上げる。
「ロゼちゃん。置いていかないでほしいッス。ここ熊とか出るんスよ」
 背中を深く丸めたまま、ココロはぬらりと立ち上がった。眠そうに肩を揺らして、ゆらりゆらりとロゼを追いかけていく。
「おっと」
 ふと、誰かの視線を感じてココロは振り返った。
 ――そこに人の姿はない。無人の野をしばらく見つめ、寂しげに微笑む。
「フィーナちゃん。行ってくるッス」
 その呼び声に応える者がいないことを知りながら、ココロはフィーナの名前を呼ぶ。返事か来るのをじっと待ち、やがて小さく首を振った。
「行ってくるッス」
 ――歩き出す。親友に別れを告げて。

 果たして本当にフィーナは存在したのか。
 答えは否。誰が見ようと死者の霊など立ってはいない。
 そこのあるのはただ足跡のみ。
 ココロ・ニルーファの歩んできた足跡。偽りの勇が紡いだ物語。

 そして始まる。
 まだ見ぬ世界の果てへと続く、勇気ある者の物語――。



・あとがき


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