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~ディノ・ガレル~

 営業開始したばかりの大衆酒場『石造り亭』にまだ客はいなかった。ここは午後五時開店だけれど、客が入り始めるのは大体六時過ぎ頃から。それまではいつも空席がずらり並んでいる。
「昨日ね、雷が落ちたんだよ」
 客が来なくて余程暇を持て余していたのだろう。上機嫌な笑顔でローリーが話しかけてきた。
「全然気づかなかったな」
「ピシャーンピシャーンピシャーンって三回。僕ちょうど店の外に出ようとしてたから、運が悪かったら当たってたかもね」
 雷……。雨が降った様子もないし、雷が降るような天候状態だったとは考えにくい。
 そうなると……あれがまた活動を始めたのかもしれない。
 ――神の雷。見放された者に死を与えるといわれる都市の伝説。
 ここしばらく噂を聞かなかったが、どうやら消えたわけではなかったようだ。
 不謹慎かもしれないが、少しありがたい。姉さんやクレールが帝都で暮らし始めたばかりの今だ。誰かが見放された者を抑えていてくれるなら、多少は安心できる。
「そういえば、クレールは一緒じゃないの? 帰ってきてるんでしょ?」
 思い出したようにローリーが訊いてきた。どこかでクレールと会っていたらしい。
「ああ。クレールならロミーナ姉さ……ん、いや、妹と話でもしてるんじゃないかな」
 姉さんとクレールは二人でお風呂に入ると言っていた。だから気をつかったというわけではないけれど、ばったり着替えの最中にでも出くわしたら怒られるだろうと思い、ここまで避難しにきたのだ。
「そっか。妹さん一人残したままじゃここへ来られないもんね」
「ああ。クレールがいてくれると安心できるよ」
 長い付き合いのあるローリーとは気が置けない間柄だ。姉さんやクレールの前では言えない事も、ここでなら話題にできる。
 楽しい時間は早く過ぎ去るもの。気が付けば時刻は六時半を回っていた。客もポツポツ入り始めていたので、これ以上僕だけが彼と語らっているわけにもいかない。
「また来るよ」
 会計を済ませ、ローリーにそういい残して店を後にする。そろそろ家に帰らないと、またロミーナ姉さんにどやされるかもしれない。
 ぎぃー。
 歩き始めたその途端、どこかからそんな音が聞こえた。一度だけでなく、何度も続けて。
 ぎぃー。
 ぎぃー。
 ぎぃー。
 ぎぃー。
 ――またか。昨晩も聴いたバイオリンの音。力任せに弦を引っ掻いたような……。
 こんな暗い時間に弾き語りでもないだろうし。練習中にしては少しも成長の兆しが見えない。いや、上手く弾こうという気概を感じないというべきか。
 ぎぃー。
 右から。
 ぎぃー。
 今度は左から。
 ぎぃー。
 ずっと後ろから……。
 ――おかしい。音の聞こえてくる方向があちこちへ行き来している。もしこの音をたった一人で鳴らしているのだとしたら、音源がとんでもない速さで移動していることになる。
 誰かの悪戯か。何者かに化かされたか。そうでないとしたら……。
 足元の地面を見据える。そこには例の赤い魔剣が刺さっていた。バイオリンの音が悪戯でないとしたら、またこれが必要になるかもしれない。
 剣の柄を手でつかみ、感触を確かめる。まだ一度しか持ったことのない物だというのに、驚くほどしっくりと手に馴染んだ。
 ――ある。剣は確かに存在する。幻なんかじゃない。それだけ確認し、柄からそっと手を離す。
 身を守るための武器。
 もしくは僕を陥れるための罠……か。
 これを僕に預けた虹眼の少女の真意がつかめない限り、不用意に触れるのは危険かもしれない。だけど、より明確な危機が身に迫っているのなら話は別だ。
 離れた場所へ瞬間移動するバイオリンの音。その正体は恐らく見放された者。この街で起こる理解不能な出来事の多くは、それで説明がつく。
 見放された者に対抗する手段がこの赤い魔剣しかない以上、いざとなったら使わざるを得ない
 意を決して、家路と反対方向の道へ歩き出した。
 これでも大学でいろんなことを勉強してきた身だ。アムルパーレの地図くらいは頭の中に入っている。逃げ道を塞いで先回りするように、バイオリンの主を追いかけていく。
 歩みを進めながら自問する。ただの一般市民に過ぎない僕が、わざわざ危険を冒してまで調べに行く必要があるだろうか――と。その答えとなるいくつかの単語を、心の中から拾い上げていく。
 好奇心使命感義侠心功名心。あるいは……ただの怖いもの見たさ、か。
 こうして自分の気持ちを整理している間にも、足は勝手に前へと進んでいく。より危険へと近づいている。逃げるなら今の内だと心の声が訴えている。
 ……僕は止まれなかった。あの魔剣に触れてしまったことで、何かが壊れてしまったのだろうか。
 ――歩く。
 ――歩く。
 行き着いたのは、使われなくなった木箱やがらくたが山と積まれた薄暗い路地裏の空間。そこに女性の後姿が見えた。
 白いドレスを身にまとい、腰まで伸ばした波形の髪。どこかで見たことがある気もする……。
「あれえ?」
 首から上だけをぐるり回して、女性がこちらを見た。
「ああ。ディノさんじゃないですかあ」
 ――それはオルネラだった。
 正確には『オルネラだったもの』だ。面影を残してはいるが、先日出会った彼女とはまるで別人だ。もはや『人』と呼べないほどに、その肉体は変異していた。
 異形成腫活化病。人体の構造を作り変えてしまう不治の病。彼女も蝕まれていたというのか……。
 変異の病の影響は、彼女の両腕に色濃く表れていた。手にしたバイオリンには、不自然なほど肥大化した左腕が根を張り一体化している。バイオリンを弾くための弓も、変異した右手に取り込まれ融合していた。瞳は血走り大きく見開かれ、だらしなく開いた口からケタケタと笑い声を漏らしている。
「観てください。私、こんなに上手に演奏できるようになったんですよお。アハ……あははハハはは……!」
 笑いながら、オルネラが弓を持ち上げる。悪い予感がして、僕は赤い剣の所在を確認しようとした。
 ――唐突に背後で何かが崩れるような音がした。一回……二回……続けざまに三回も。
 やや離れた場所に木箱やが散乱しているのが見えた。道の端に積んであったものを誰かがひっくり返したらしい。
「自分から 袋小路に入り込んでくれるなんてね」
 転がる樽の向こうから、人影が姿を現した。速くも遅くもない足取りでこちらに近づいてくる。
 ――小さな影。……見覚えのあるシルエット
「ディノ!?」
 人影が声を上げた。クレールの声だった。
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