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幕間その2

 ~ディノ・ガレル~


「それにしても驚いたぁ。あんたもあれを持ってたなんて」
 夜の寝室でクレールと二人。ベッドに腰かけ、僕たちはオルネラの一件について話していた。ロミーナ姉さんはクレールの部屋で休んでもらっている。今ごろは夢の中だろう。
「偶然にしてはできすぎじゃない?」
「偶然じゃないんだろうさ」
 の所有者を選定できる存在がいる。全てを必然にできる存在。虹色の眼を持つ少女。彼女の思惑を知るまでは、まだまだ不安な日々が続くことだろう。
 枕元に置かれていた赤い剣を拾い上げる。クレールも、どこからか透き通った緑色の剣を取り出した。僕が使うものと同じで、所有者が触れるまでは視認できないらしい。
 緑の魔剣。剣先が三叉に分かれた特殊な剣だ。彼女はこれを使い、閃光弾のようなものを飛ばしていた。赤の魔剣ではできない芸当だ。
「対『見放された者』用。あたしの秘密兵器」
「変異した人を、倒せるのかい?」
「ええ。こうやって、ちょっと力を流し込んでやるだけで」
 パシッという鞭打ちのような音が鳴り響き、クレールが持つ剣の先と壁との間に、一瞬だけ青白い小さな雷が発生した。
 ……なるほど。強力だ。彼女自身の身体能力も合わせると、荒事に関しては、僕よりはるかに優秀だろう。
 クレールは剣を手放した。その瞬間、緑の魔剣は影も形も見えなくなった。認識できるのは剣の所有者である彼女だけだ。
「剣を持ったとき、数式は見えるのかな」
「数式? なにそれ」
 普通の方法で『見放された者』の生を奪うことはできない。自然に発生した特大の稲妻が直撃したとしても、彼らは絶命しないはず。
 さっきの小さな雷を当てるだけで変異した人を死なせられるということは、恐らく緑の剣にも、死の数式を書き込む機能が備わっているのだろう。彼女に数式は見えていないようだけれど。
「赤い剣を持つと、他人の情報が数式になって見えるんだ。身長とか体重とか、見た相手の全てがわかる。ただ、記憶や思考なんかは読めない」
「見えるだけ? 他になにができるの?」
「斬りつけた相手を、ある程度自由に改造できる。例えば、怪我を治療したりだとか、体の強度を上げたりだとか。あるいは、その逆もできる」
「変異も治してたっけ。記憶は飛んじゃってたけど」
 実のところ、赤の魔剣で異形成腫活化病を直接治すことはできない。一時的にステータスを正常値へ変換することはできるが、またすぐに変異が始まってしまう。
 病気などではない。あれは存在そのものの欠陥が原因だ。『死』を失った者。それはもはや人間ではない。だから人間ではない『何者か』へと変貌する。
「……いつから持ってたの?」
 クレールからの質問が続く。
「手に入れたのは最近だよ。君は?」
「もう二年も前よ。んー……ほら、神の雷っていう都市伝説があるでしょ。あれ、あたし」
「そうか……。じゃあ、君はずっとこの街を守ってくれていたのか」
「馬鹿言わないで。あたしなんて……」
 クレールはふっと視線を落とした。瞳に浮かんだ暗い光は、自嘲か悲しみか。
「あたしなんて、ただの人殺しだわ。ディノがオルネラのこと助けたのを見て、気づいたの。あたしは、救えた命を切り捨ててきただけなんだって」
「だけど君がいなければ――」
「だって……だってさ、助かるなんて……知らなかったんだもの……」
 僕の声など、届いてはいなかった。クレールは肩を震わせ、唇をかみ締めている。オルネラのことを想っているのだろうか。それとも他の誰かを……。
 確かに、あの場所へ僕が行かなければ、クレールはオルネラを葬っていただろう。しかし、それは仕方のないこと。オルネラはあの時点で生を失っていた。死を与えてやることが正しい選択だったのかもしれない。
 彼女を助けたのは僕のエゴだ。それ以外の理由じゃない。だから、クレールには自分を責めてほしくなかった。
 ……クレールは貧民街で生まれ育った。
 生きるために。今日を乗り切るために。僕なんかでは考えられないような苦しみをいくつも乗り越えてきただろう。
 生を否定することは、彼女を全否定することに等しい。生きるためだけに、クレールは全てを費やしてきたのだから。
 それでも、生きることだけが絶対に正しいのだという彼女の考えに僕は賛同することができない。
 なぜ死んではならないのか、というローリーの問いかけに、答えることができなかったから。
「あたし、オルネラを助けられなかった。今まで倒してきた人たちだって、本当は……」
「全ての人を救うことなんてできない。僕でも。誰でも。身近な人でさえ……」
「でも、ディノは助けた」
「見放された者たちは、数値的には死者だ。助ける方が不自然で間違っているのかもしれない。だから気に病むことはないよ。君のおかげで救われた命も沢山あったはずだ」
「……前から思ってたけど、あんたって、いい奴よね」
 不意に、クレールの小さな両手が、僕の頬と後頭部に触れた。
 すかさず顔を寄せるクレール。考える間を与えてはくれない。
 ――唇に、温かくてやわらかい感触があった。
 長い静寂。十秒……二十秒が経過したかもしれない。クレールはそっと離れて微笑んだ。
「……うん。いい奴だ」
 確認するかのようにクレールがつぶやく。『あたしと違って』という言葉が続くような気がした。
 初めて交わした口付け。好意の証。それなのに、なぜだろう。彼女との距離が離れてしまったように思えて、僕は悲しかった。


『全ての人を救うことはできない。身近な人でさえ』
 自分の口から出たその言葉が胸を締めつけた。
 身近な人を助けられない。
 支えになることすらできない。
 かつてはそんな自分に嫌気が差したこともある。……今でもずっと心に引っかかっている。
 胸に深く打ち込まれた鋼鉄の杭。抗うことのできない追憶罪過の代償。目を背けたくなる穢れ
 今日も僕はあの場所へと向かう。その理由もわからないままに。
 罪の意識がそうさせるのだろうか。それとも……。

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