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~エルメル・アンバーグラス~


「馬鹿な……」
 俺とベアトリーチェ隊長は同時につぶやいていた。
 目の前で繰り広げられる惨劇――。死んでいったはずの仲間たちが次々と『見放された者』に変貌し、味方を襲い始めていた。
 予想もしなかった事態に皆の対応が遅れた。戦況は瞬く間に悪化し、たちまち全滅寸前まで追い込まれてしまった。
 その上。……味方がやられていくことよりも、こっちの方がもっと深刻だ。『見放された者』に倒された味方の兵は、全員が変異の病に侵されていた。一人として死んでゆく者はいない。
 ――傷口から緑色の体液を噴出させている者。
 ――翼を生やし、空へと飛び上がる者。
 ――のような太く鋭い爪を振り回す者……。
「全軍退却!」
 どこかで撤退命令を出す声がしていた。その数秒後、同じ場所から今度は断末魔の悲鳴が聞こえた。
 まだ生き延びていた兵たちが散り散りになって走り出す。ベアトリーチェ隊長が動き出すのを見計らい、俺はその後を追った。
「どうなっているんだ、これは!」
 岩陰に隠れたところで、隊長が頭を抱えて叫んだ。
「あんな数、相手にできるはずがない! なにもかもが滅茶苦茶だ!」
 俺は岩陰からそっと顔を出し、見放された者たちの様子をうかがった。
 ――逃げ遅れた男が、見放された者に胸を貫かれ絶命した。次の瞬間、死んだはずの男は奇声を上げ、全身毛むくじゃらの怪異へと変貌した。
「私もやられれば化け物になるのか……? 嫌だ……! あんな怪物になりたくない!」
 震える声で言い放ち、隊長は拳銃を握り締めた。
『見放された者』たちはさらに数を増やしてゆく。今日ここへ来た兵の七割以上がすでに異形と化していた。
 化け物は互いに襲い合い、激しく争っていた。ここから飛び出せば、俺と隊長も奴らに狙われるだろう。
 全員倒してのける自信はない。五体同時くらいまでなら勝つ自信はあるが、こうも数が多いと……。
 しかし、誰かが注意を引けば、突破口は開けるかもしれない。俺と隊長以外にも、まだどこかにまともな人間が隠れているだろう。そいつらも運が良ければ脱出させられる。
「俺がおとりになる。隊長はその隙に、奴らがいない方へ走ってくれ」
 そう俺が言うと、隊長は驚いた顔でこちらを見返してきた。
「なんだって……? しかし、それではキミが危険な目に……」
「隊長の武器は、大勢を相手するのに向いてねえ。俺がやるしかないんだ」
「……勝算はあるんだろうな」
「心配すんな。俺も必ず生きて帰る」
 隊長はしばらく俺の目を見つめた後、黙って岩陰の右端に寄った。
 俺は左端へ移動し、『見放された者』たちの動向をうかがう。
「キミは嘘をつくとき、唇を舐める癖があるな」
 抑揚を感じさせない声で隊長がつぶやいた。
 俺はいつ唇を舐めていたのだろうか。思い出そうとしてみたが、わからなかった。
「よし……行くぜ……!」
 合図と同時にベアトリーチェ隊長が物陰から飛び出した。その動きに気づいた見放された者たちが数体、隊長の後を追いかけようとする。
 すかさず青い魔剣を巨大化させ、隊長を追いかけようとするそいつらの行く手を遮った。
「おーっと。ここから先は通行止めだ。無事な奴が全員逃げきるまで邪魔させてもらうぜ」
 両手で剣を握り締め、俺は突撃した。何体かの見放された者がこちらの接近に気づいたが、もう遅い。
 青い魔剣を横薙ぎに振るいながら、刀身をさらに巨大化させる。
 ――上段。
 ――中段。
 ――下段。
 体ごと剣を大回転させ、三連撃を放つ。
 飛び出してからわずか数秒で、十数体もの『見放された者』が吹き飛んだ。
 剣の届かない場所にいた怪異たちが、一斉に襲いかかってくる。
 俺は連中の懐に飛び込み、剣を振り回した。
 いくつもの手ごたえを感じる。瞬く間に敵の数が減っていった。
 ――これならいける。
 発症したばかりだからだろうか。ここにいる奴らは、歌姫グリゼルダやエーベルハルト公爵の足元にも及ばない。
 剣を振り上げ、上空の敵を打ち落す。
 剣を振り下ろし、地を這う敵を叩きのめす。
 いくつもの反撃が俺の体に命中するが、気にしない。
 頬を切り裂かれ、つま先を潰され、胸骨をへし折られても俺は止まらなかった。
 戦闘開始から約五分――。
 数十体もの怪異に八方を囲まれ、俺は完全に行き場を失っていた。
 迫り来る脅威――――狂気。その勢いは一向に衰える気配を見せない。
「くそっ……。冗談じゃねえ……」
 恐怖のあまり、口元に笑みがこぼれた。荒い息を整える余裕もない。いよいよ覚悟を決めるときが来たか……。
 ――いや。まだだ。まだ終わってない。
 この化け物どもを帝都へ向かわせるわけには行かない。体が動いている限りは諦めることなどできない。
 ――死ぬなら。
 せめて一体でも多く道連れにする。
 それが使命。この青い魔剣を手にしてしまった者の宿命――だ。
「きやがれ……テメエら……! こっちはとっくの昔に腹据えてんだ……。そう簡単にゃくたばらねえぞ……!」
 視界を埋め尽くす無数の怪異に立ち向かい、俺は無我夢中で剣を振るった――。



 青い魔剣で最後の『見放された者』を貫き、俺は長く息を吐いた。
 息がひどく乱れている。もう何も考えられないほど疲れきっていた。
 ――勝った…………のか……?
 その事実を受け入れられるまでに、しばらくの時間を要した。もう駄目だ――と、何度も思ったが……どうにかなってしまったらしい。
 周囲には数多くの屍。少し前まで仲間だった者たち。呼吸が整い始めた後、彼らの冥福を俺は祈った。
 ……全身が痛い。すり傷。切り傷。打撲。骨折。ねんざ……。自分でも把握できないほど多くの箇所を痛めてしまっている。まともに歩けもしない状態だが、ここから一人で帝都まで帰らなければならない。
 ――隊長は無事逃げられただろうか。そんなことを考えたときだった。
 突然、胸に鋭い痛みが走った。
「なっ……に……?」
 見る見るうちに服が赤い血で染まってゆく。
 ――しまった。油断した。
 敵はまだ残っていた。恐らく、透明になれる能力を持った奴だ。
 俺はすかさず剣を振った。何も見えない場所で鈍い手ごたえがあった。その直後、誰かが崩れ落ちる音がした。
 誰を倒したのか確認する余裕はなかった。体が勝手に地面へ倒れ込み、急激に視界が閉ざされていく。
 ――歌声は聞こえない。
 ――歌声は届かない。
 声の主はもういない。死を招く歌が響くことは、もう――ない――。
 薄れてゆく意識の中、最期に俺は家族の名を呼んだ――。



 BAD END・・・?



 ヒント エルメルは力尽きましたが、まだ死亡したわけではありません。他の登場人物の視点から、その後彼がどうなったのかを知ることができます。



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