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~ディノ・ガレル~

 居間で一人、物思いにふけっていると、玄関の扉をそっと開けクレールが入ってきた。仕事探しから帰ってきたようだ。
首尾はどうだい?」
 とりあえず話しの取っ掛かりとして尋ねてみる。が、彼女の浮かない表情を見れば、聞くまでもなく結果は大体わかる。
「ダメね。どこも人は足りてるっていうし、落ち着くまでどうにもならないみたい。んん……当てはなくもないけど、そこもしばらくは無理だし……」
 クレールは長いため息をついた。
 最近はずっと仕事を探しあちこち出回っていたみたいだけれど……。僕の故郷から一気に人が流れてきた影響か、晴れない霧のせいでどこもあわただしくなっているからか、なかなか勤め先が見つからないらしい。ローリーの店で雇ってもらえば……というようなことを僕が話したら、なぜか怒られた。聞けば、最近あの店でひどい目に遭わされたんだとか。
「で、どしたの? 家の中でコートなんか着ちゃって」
 こちらの服装に目を留め、クレールが訊いてくる。
「異形成腫活化病の元凶が見つかったかもしれない。これからそれを食い止めに行く」
「――それって……」
「ああ。上手くいけば、この街や僕の故郷から見放された者はいなくなる」
「ふーん……」
 話を聞いたクレールの応対は驚くほど静かだった。
「アンタでなきゃ駄目なの?」
 ――嘘は許さない――。そう言いたげにこちらをにらみつけながらクレールが尋ねてきた。
「僕でなければ無理だ」
 鋭い視線を正面から受け止め、きっぱりと断言する。
 ――本当はそんな根拠などどこにもない。が、ここで半端な回答をすれば、クレールは自分が行くと言い出すだろう。
 人を犠牲にしながら自分だけのうのうとしていられるほど僕は器用じゃない。何より、三年前に味わったあの無力感をもう一度経験するなんて、とてもじゃないが耐えられそうにない。
 行くのは僕だ。そして必ず無事に帰る。
 ……だけど。不安がないわけじゃない。クレールが帰ってくるのを待っていたのは、もしもの場合に備えるためだ。
「もしかすると、もうここへは帰ってこられないかもしれない。だからクレールに頼みが――」
 ガチャンと大きな音がして、足元に何かが転がってきた。見るとそれは木製の丸いトレーだった。
 ――振り返る。奥の部屋からやってきたのだろう。部屋の入り口にロミーナ姉さんが立ち尽くしていた。
 足元に割れたティーカップが二つ。床面には液体が広がっている。僕のためにお茶を淹れてきてくれたのか――。
「どういう――こと? ねえディノ! 帰ってこれないってどういう――」
 わめき散らしながらロミーナ姉さんが詰め寄ってくる。僕は無言で椅子から立ち上がり、足早に玄関へと向かった。
 すぐに姉さんが追いかけてくる。その進路をクレールが塞いだ。
「ごめん姉さん。……クレール、もしものときは姉さんを連れて街から脱出してほしい。帝都から離れれば、少しは安全なはずだ」
「――わかった」
 振り返らずにクレールが答える。その向こうに、泣き出しそうな顔のロミーナ姉さんがいた。
「やだ! やだぁっ! ディノ! 行かないでディノ!」
 必死の懇願を背中で受け止めながら、玄関の扉を開く。
 ――嘘はつけない。ロミーナ姉さんを傷つけるような嘘だけは絶対に。
 もしここで適当に誤魔化し、それで僕が帰らないようなことになれば、ロミーナ姉さんは嘘に気づけなかった自分自身を責めるだろう。だから振り切って行く。クレールは姉さんに恨まれてしまうだろうが……彼女ならそれでもうまくやってくれると信じている。
「ディノ! 待ってディノ! あたしもうわがまま言わないから! ディノのこといじめないから……! だから……だから……」
 呼び声は泣き声になり、次第に嗚咽へと変わっていく。
 ……ロミーナ姉さんが泣いている。
 ――胸が痛い。姉さんの声を聞いていると、心が締めつけられていくようだった。
 外へと踏み出し、後ろ手で扉を閉める。無事に帰れたら何時間でも何日でも、姉さんの気が済むまで愚痴に付き合おう。そんな気持ちを胸に抱きながら――。



 ――そこはなにもない場所だった。大地も、青空も、海も、生き物も、そして闇も。
 真っ白な床に真っ白な空。それがずっと先まで。目を凝らしてみても果ては見えない。
 石造りの古城を目指していたはずなのに、いつの間にか妙な場所に迷い込んでしまった。これも事象の歪みが招いた怪現象なのだろうか。それとも、僕の方が招かれてしまったのだろうか。
 どこまでも続く虚無の世界。そこに、僕と『彼』だけがいた。
 草色の外套を羽織った金髪の男……。ローリーと同じ空色の眼でこちらを見据え、僕の正面に直立している。
 歳はわからない。老境に差しかかったばかりのようでもあり、意気軒昂な若者のようでもあった。
 なぜだろう――か。初めて会ったはずだというのに、僕には彼が誰なのかはっきりとわかった。――いや、わかったというより『知っていた』が正解だろう。
 初対面。なのに知っているという矛盾。
 そう。彼こそが、帝都アムルパーレに数々の矛盾を生み出してきた事象の歪み。その中核と呼ぶべき存在。
 ――大皇帝リュシアン――。
 実在しないのではないかとも思っていたが……こうも簡単に会えるとは……。
「客人よ、ようこそ」
 金髪の男が野太い声で言った。
「大皇帝リュシアン……なのか……?」
然り!」
 叫び声が響くと同時、地面が大きく揺れた。凄まじい地鳴りを轟かせながら、大皇帝の足元が競りあがってゆく。様々な色をした砂袋のような塊が、真っ白い床から次々と湧き出し大きな山を形作っていく。
 おびただしいほどうずたかく積みあがったそれは死体。無数の屍が折り重なり、大皇帝リュシアンを祀る祭壇と化している。
 あまりのおぞましさに、思わず後ずさりした。そのとき、かかとがなにかぐにゃりとしたものに当たった。
 振り向いて――叫び声を上げそうになった。
 かかとに触れた『何か』。それは僕だった。
 血の気の失せた青白い顔で。どこか遠くを見つめている虚ろな瞳――。
 ――死んでいる。『僕』の顔をした誰かが。……『僕』だけじゃない。
 いつの間にあったのだろう。辺りには、無数の死体が無造作に打ち捨てられていた。
 白い床面のずっと先まで――――ある。何千人か何万人か…………あるいは視界に納まりきらないだけで、世界人口をも上回っている可能性があった。
 なぜなら……僕の屍が複数体確認できるからだ。――それだけじゃない。周囲にはあの虹色の眼の少女や、ロンブローゾも倒れている。それも一人二人じゃなく、数人――――数十人も。
「……この幻覚も貴方の仕業か、大皇帝」
 声が震えそうになるのをどうにか抑えながら、大皇帝に尋ねる。大皇帝リュシアンは首を大きく左右に振った。
「人の子よ。これは紛れもない現実だ。この空間はあらゆる時間、あらゆる可能性と繋がっている。……そう!」
 草色のマントが翻った。大皇帝が大きく両腕を広げ、天を仰ぐ。
「世界は可能性の数だけ存在する。例えば、君が赤の魔剣を手にすることなく姉に殺されてしまう世界。例えば、君が友人と共に帝都の外へと旅立つ世界。例えば、青い剣の男が助からない世界……」
 平行世界……というやつだろうか。もしかしたらこうなっていたかもしれないという未来、今、そして過去。そういう話は物語の中にしか存在しないと思っていたが……。
「この場にある屍は、汝らの可能性。その一端なのだ。皆、異なる道を経て異なる足跡を残し、この境地へ至った」
 ――改めて辺りを見回してみる。近くに倒れている大勢の人たち……。ロンブローゾと虹色の眼の少女の割合が多い。ざっと見ただけでも30人くらいずつはいる。次いで多く確認できるのは……僕か……。ローリーやエーベルハルト公の姿も確認できる。これをみんな、大皇帝がやったのか……?
「だがしかし!」
 大皇帝が声を張り上げた。
「如何なる道を歩もうとも、ここから先の運命は皆同じだ! そう! 余に破れ、そして死す!」
「事象の歪みが意志を持ったのか……。本当なら、実在すらしない人間のはずが……」
「否! 否である! 余こそが全て! 森羅万象にして万古千秋! あまねく宇宙は余がために在り!」
 大皇帝が前へと手を伸ばす。そこにはなにもない。――なにもないように見えた。けれど……。
 ――大皇帝の手に、いつの間にか剣が握られていた。
 水晶のように透き通った刃。――無色の魔剣。
 わずかな反りが入った刀身。角型の小さな鍔。基本は片刃で、切っ先のみ両刃作りになっている。
 噂には聞いたことがある。サムライソードの形状。折れず曲がらずよく切れるという、冗談のような剣。矛盾から生まれた大皇帝にはふさわしい代物かもしれない。
「見よ! 殺戮の化身たる剣のイモータルも、我が手中に有る! もはや余を滅ぼせる者はどこにも存在せぬ!」
 大皇帝が死体の山を駆け下りて迫り来る。口元にいびつな笑みをたたえながら。
 応戦するため、こちらも武器を手に取った。虹色の眼の少女から譲り受けた力、赤の魔剣を――。
「さあ! 人の子よ! 戦おうではないか! あらゆる可能性を喰らい尽くし、余は万物の王となるのだ!」
 赤の魔剣が異常を検知する! 大皇帝リュシアンを構成する情報、その全て。あらゆる項目が、ありえない数値を示している――!?
 身長、体重、年齢、体温、身体能力、全て測定不能。感情、人種、健康状態、位置情報、全て判別不能。
 見たこともない数式の羅列。明らかに人間のそれとは構成が違う。
 これが異形成腫活化病の元凶。帝都に巣食う巨大な事象の歪み。なにが通用するのか――あるいはしないのか、全く想像もつかない。
「成敗である!」
 大皇帝が持つ無色の魔剣から、見えない衝撃波が放たれた。放たれたそれに気づいたそのときには、僕の体は大きく吹き飛ばされていた。
 高く――――高く吹き飛ばされ、背中から叩きつけられる。
 死体の山がクッション代わりになってくれたおかげで即死は免れた。けれど、受けたダメージは深刻だ。
 足は多少痛いくらいで問題ないが、左腕は肩を痛めてしまったらしく動かない。背中や腰、胸骨の辺りもひどく痛む。おまけに、落ちたショックで舌を少々噛み千切ってしまった。
 ――次元が違う。たった一撃でここまでやられるなんて……。
 口の端から血を流しながら、赤の魔剣を杖代わりに立とうとした。その瞬間、パリンと高い音を立てて、赤の魔剣がバラバラに砕けた。
 見通しが甘かった……のか。
 クレールに対しては「帰ってこられないかもしれない」などと言っておきながら、僕は緊迫感を欠いていたのだろうか。
 そもそも、石造りの古城に危険があるのかどうかさえ、あの時点では曖昧だった。もしかしたら何事もなく全てが解決するかも……と、甘い期待を抱いていなかったとは言い切れない。
 僕が帝都を救う――? 異形成腫活化病の元凶を食い止める――?
 ――なんて甘い。そして浅はかな考えを持っていたんだろう。もはや事を成すどころか、ここから生きて出ることさえ難しい。
 追撃を警戒し、大皇帝をにらみつける。そのとき――――僕はあることに気づいてしまった。
 威風堂々直立不動の姿勢を貫く大皇帝。その靴の下――。そこにロミーナ姉さんがいた。
 十歳そこそこの子供になった姉さんじゃない。帝都で僕と再会したときの――――背が高くて女性らしい体つきの、あのロミーナ姉さんだ。周りにいる他の人たちと同様、前のめりに倒れ込んだ姿勢のままぴくりとも動かない。
 ここはあらゆる可能性が混在する世界。もしかしたらこの場所へ、僕ではなくロミーナ姉さんが辿り着く未来もありえたということか――。
「人の子よ! 裁きの時は来た!」
 無色の魔剣がゆっくりと振りかぶられた。またあの衝撃波が来る。間もなく僕は力尽きるだろう。
 絶望と恐怖。そして例えようのない怒りが胸の内に去来していた。
 ――怒り。そう、僕は怒っていた。目の前で、ロミーナ姉さんを踏みにじるあの男に対して。
 立ち上がる。ふらつく体をなんとか支えて大皇帝を視界に収める。
 武器をなくした今、僕にできることはなにもない。こうして最期まで心を折らずに立っていることだけが、精一杯の抵抗だった。
 ――そのとき。不意に。
 大皇帝がぴたりと動きを止め、ゆっくりと視線を下へ向けた。
 つられて僕も大皇帝の足元を注視する。思わず自分の目を疑った。地に伏せていたロミーナ姉さんが、大皇帝の足首をしっかりとつかまえていた。
「何故……此奴は既に死んでいた筈……!」
 大皇帝が初めて狼狽の色を見せた。歪みから生まれた人格にも、その内部では様々な感情が働いているのだろうか。
「だ……大丈夫……だよ……」
 姉さんが顔を上げ、こちらに向かって優しく微笑んだ。
「ディノは……ディノのことは……お姉ちゃんが絶対に守ってあげるから……ね……」
 ――炎が上がった。ロミーナ姉さんの手から。その手でつかんだ大皇帝の足から。
 火は大皇帝が着けていた草色の外套に燃え移り、瞬く間に広がっていった。
 これは……姉さんが異形成腫活化病に侵されていたとき使っていた能力だ。見放された者と化したその体で、それでもなお僕を守ろうと戦ってくれている――!
「目障りである! 消え失せよ!」
 大皇帝が無色の魔剣を振り上げる。その刃がロミーナ姉さんへと、今まさに振り下ろされようとするその瞬間――――。
 ――なぜそんな無謀なことができたのか、自分でもわからなかった。僕は、炎に包まれた大皇帝の下へと一直線に駆けていた。
 姉さんの異常熱量に焼かれるか、大皇帝の魔剣に斬り捨てられるか、どちらでもよかった。ただ、ロミーナ姉さんが傷つけられるところを見たくなかった。
「――――!?」
 全力疾走する僕の右手に光が集束し、何かの形へと変化していく。
 ――それは剣。
 透き通った七色の剣。
 反りはなく、鍔もなく、柄の短いシンプルな直刀。突き刺すための切っ先はなく、剣先が平らになっている。刀身の色が、炎のように揺らめきながら変化し続けていた。
 迷っている暇も、動揺している猶予もなかった。駆ける勢いをそのままに、刃も峰も構わず大皇帝へ剣を叩きつける。
「ぬうっ!」
 渾身の一振りを、大皇帝が無色の魔剣で受け止める。受け止めた――つもりだったのだろう。
 虹の魔剣はなんの抵抗もなく真っ直ぐに振り抜かれた。
莫迦な――!」
 大皇帝が構えた無色の魔剣は、粉々に砕け散っていた。いくつもの透明なかけらが宙を舞い、白い床面にパラパラと降り注がれていく。
 斬った――――という感触、手ごたえがない。しかし、目の前に立つ大皇帝は苦悶の表情で動きを止めていた。
「おお! 余が敗れるのか! 万古の力を手にせしこの大皇帝が! 人の子らに敗れるというのか!」
 大皇帝はもがき苦しみ、すがるように頭上へと腕を伸ばした。
「有り得ぬ……! 余は……あまねく……宇宙の……!」
 ――大皇帝の言葉はそこで途切れた。
 天へと腕を突き出したその姿勢のまま、大皇帝の体が砂粒に変わり、風もないのにサラサラと流れ消えてゆく――。
 終わった……のか…………?
 あまりにも剣が軽かったせいか、実感が湧かない。
 事象の歪みを消滅させた虹の魔剣。揺らめきながら変化する刀身の色を見つめて自問する。
 ――なぜこんなものを持っている?
 その答えはすぐに思い当たった。この空間には虹色の眼の少女が何十人も倒れている。その中の一人が、最後の最後、力を貸してくれたのだろう。
「――姉さん?」
 ……そうだ。
 ここにはもう一人、僕を助けてくれた人がいる。僕のすぐ傍に倒れている。
「姉さん! ロミーナ姉さん!」
 最後の力を振り絞ったのだろう。ロミーナ姉さんはぐったりと地に伏せたまま動かなかった。
 死んでいるわけではなさそうだ。見放された者は死なない。とはいえ、歪みの大皇帝が消えた今、それもいつまで続くかわからない。
 手元を見た。この虹の魔剣で、赤の魔剣と同じことができるだろうか……。
 数式は見えていた。ロミーナ姉さんを構成する情報。その全て。
 駄目で元々と思い、姉さんの年齢を一年だけ下げ、過去の情報を修正してみる。――と、思いの外あっさりと試みは成功し、荒れ放題だった姉さんの肌が元のつやを取り戻した。どこか苦しげだった表情は安らかな寝顔へと変化し、いい夢でも見ているのか幸せそうに笑っている。
 ――安堵のため息を「ふうっ」ともらす。
 このロミーナ姉さんがどこの次元からどういった経緯でやって来たのかわからないが、とにかく命だけは取り留めることができた。
「おっと」
 さっきの異常熱量で姉さんの服が焼けてしまったから、このままだと目のやり場に困る。僕は着ていたコートを脱ぎ、ロミーナ姉さんの上にかぶせた。
 ――あのとき、ロミーナ姉さんが助けてくれなければ僕は確実に負けていた。姉さんが大皇帝の心を乱してくれなければ――。
 歪みから生まれた『大皇帝リュシアン』という人格は、非常に際どいバランスの上で成り立っていたのだろう。ちょっとした焦りや動揺で容易く弱体化してしまうほどに、その存在は薄弱だった。だからこそかろうじて勝利を収められた。
 ともかく、ここで成すべきことは終わった。今はゆっくり休むことにしよう。
「おやすみ。姉さん」
 枕代わりに……と、眠る姉さんの頭の下へ手を差し込み、僕はその温もりを感じた。
 そうして……どれだけの時間が経っただろうか。
 ――唐突にがくんと地面が揺れ、床一面――空一面全てが暖かく発光し始めた。優しい光に包まれて、倒れていた人たちが溶け込むように消えていく。
 虹色の眼の少女も。
 ロンブローゾも。
 僕自身――そしてロミーナ姉さんも。
 事象の歪みが消え去ったことで、この異常空間が通常空間に戻ろうとしているのかもしれない。
 僕は……どうなるのだろう。ここは矛盾から生じた歪みの世界。そこに存在する者は、全て消え去るのだろうか。それとも――。






「――――ノさん。……ディノさん。起きてください」
 誰かが肩を揺すっている。ガラスを金属片で引っ掻いたような、奇妙に甲高い声で僕を呼びながら。
 重いまぶたを持ち上げた。見えたのは――――澄み渡る広大な青空――。
 なんだか久しぶりに空を見た気がする。ここ最近は、ずっと霧しか見られなかったから。
 ……そう。霧。ここが元の帝都なら、空など見えるはずがない。アムルパーレの街は霧に閉ざされてしまったのだから。
 ふと、傍らに気配を感じてそちらを向いた。銀髪の少女が、虹色の瞳でじっとこちらを見下ろしていた。
 虹色の眼の少女――。こうして顔を合わせるのはいつ以来だろう。なんだかひどく懐かしい。
「おはようございますディノさん。今日はいい天気ですよ」
 まるで仮面を着けているかのような無表情さで虹色の眼の少女が言った。
「うん、いい天気だ。……霧はどうなったんだ」
「あの霧は消しておきました。もうこの街には必要ありませんから」
 消した……ということは、ここに霧が存在していたということ。やっぱりここは、僕が元居た帝都なのだろうか。
「赤の剣はディノさんが寝ている間に回収させてもらいました。ついでに体の怪我も治しておきましたよ」
「僕の怪我を?」
 立ち上がって自分の体をあちこち叩いてみる。どうやら本当にどこも痛めてはいないようだった。
「いや。僕のことはいいか。それより街は……アムルパーレはどうなってる?」
「何事もなく。平穏そのものですよ。異形成腫活化病がなくなったからですかね。まだ未確認ですが、あなたの故郷も落ち着きを取り戻したようです。これからしばらくは平和な時代が続くことでしょう」
 虹色の眼の少女は何回かうなずき、思い出したように「お疲れ様でした」と付け足した。
 結局……僕は彼女に利用されていたということなのだろうか。それはそれでいいとして、彼女には聞いておきたいことがある。


 A:全ての始まりについて尋ねる。
 B:虹色の眼の少女について訊く。
 C:聞くべき事はない。
 
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