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最終章『見放されし審判者』

 真夜中に玄関扉がノックされたときは少し驚いた。時刻は夜の十時過ぎ。ロミーナ姉さんどころかクレールさえもとっくに寝静まっている時間だった。
 少し警戒しながら、扉越しに「どちら様でしょう」と尋ねる。――外から聞こえてきたのは、ガラスを金属片で引っ掻いたような異様に甲高い声。虹色の眼の少女の声だった。
 ――開錠し扉を開ける。外に立っていたのは、虹色の眼の少女……と、もう一人。白い布でくるまれた銀髪の女性が、虹色の眼の少女に担がれていた。
 女性の眼球は全体が黄土色に変色し、背中には蝶のような羽が生えていた。赤の魔剣で確かめるまでもなく、一目見れば異形成腫活化病だとわかる。
「うわっ」
 驚いて思わず家の中に退避した。虹色の眼の少女は、謎の女性を担いだまま家の中へと入ってくる。少女は玄関扉が閉まるのを確認すると、玄関前の床に謎の女性を寝かせた。
「ディノさん。お晩です。驚かせてすみませんでした」
「この人はまさか……例の……」
「ええ。間一髪でした
 ――この見放された者が、噂のグリゼルダ・アルジェント……死を招く歌声の主なのだろうか。そしてローリーの実母でもある人。
 なるほど。まるで美の象徴のような、完璧に整った顔立ちはローリーに似ている。もっとも、明らかな見放された者である彼女に対して、恐怖以外の感情は抱けそうにもないが。
「治した方がいいのかな」
 尋ねると、虹色の目の少女は静かにうなずいた。
「その前に、一ついいですか?」
「……なにかな」
「赤の剣に見放された者を人間に戻す機能は備わっていません。前から不思議に思っていたのですが、どうやって治しているのでしょう」
「一口に説明するのは難しいな……」
 話しながら、赤の魔剣を手に取った。
 ――見える。読める。いつかのように。
 グリゼルダの周りに浮かぶ無数の数式。その意味を、僕は正しく理解できていた。
「この剣を持って見るとわかるけど、見放された者はどういうわけか『死』を失っている。そのせいで、生命力は失われているはずなのに死んでいないという矛盾が生まれ、その矛盾が変異や超常現象を引き起こしている。だから僕は、『死』そのものを消すんじゃなくて、死ぬ原因となった過去の記録、その人の人生経験を削除しているんだ」
「……どうしてそこまで剣を使いこなせているのかわかりませんが、よく思いつきましたね」
「怪我の巧妙だよ」
 数式を見て、グリゼルダのステータスを確認する。不自然に暗号化されていたり、式自体壊れていたりして不明瞭な部分が多い。相当にひどい状態だということがわかる。
 どうも彼女は見放された者でいる期間が長かったようだ。具体的な数字はわからないが、多分20年くらいだろう。
 異形成腫活化病が発生したのが19年前。グリゼルダはちょうどその頃の患者ということになる。
 20年――。念のために年齢の値を21年下げ、点滅し出した項目を一括削除する。周囲が一瞬強い光に包まれ、グリゼルダの背に生えていた蝶の羽が消失した。瞳の状態については、グリゼルダが眠ってしまったので確かめられないが、恐らく回復しているだろう。
 これで彼女の21年間はなかったことにされた。これからのことを考えると少し気の毒だが、見放された者であり続けるよりはいいだろう。
 人の姿に戻ったグリゼルダを見て、虹色の目の少女はなぜか浮かない顔をした。
「なにか、良くなかったかい」
「あ、いえ……。彼女が回復してしまったら、またしばらく銀の家系に仕えなければならないな……と思って」
「君はいつから公爵家のところへ?」
「だいたい400年前です」
「そうか。いろんなことがあったんだろうね」
 400年も一緒に過ごしていれば、本当にいろいろなことがあったはずだ。良いことも、そうでないことも。百年以上閉じ込められていたという話や、今の表情から察するに、よくないことの方が多かったのだろう。
「私……最低ですね。人の命がかかっているときに、自分のことばかり」
 虹色の目の少女は首を振って真面目な表情に戻った。
「とにかく、このままではまずいですね。場所を移せるといいのですが」
 グリゼルダは静かに寝息を立てている。彼女が目覚めたとき、いきなり見知らぬ男が目の前にいたら大騒ぎになってしまうだろうことは想像に難くない。
「僕の寝室を使ってもらおう。君は一晩彼女についていてくれないか。面識のある人が傍にいてくれないと不安だからね」
「わかりました。ディノさんはどこで……」
「居間で寝るよ」
 眠っているグリゼルダを抱きかかえ、自室へと向かう。その後ろを、どこか不安げな様子で虹色の目の少女がついてくる。
「込み入った話は、彼女が目を覚ましてからにしよう。今夜はもう遅い。君もゆっくり休むといい」
 グリゼルダをベッドに寝かせた後、虹色の目の少女にそう言い残して寝室を離れた。クレールやロミーナ姉さんには、明日の朝一番に事情を説明しておこう。
 ――居間の長椅子で横になり、これからのことを少し考える。
 全てが終わりに近づいている。そんな気がしていた。
 虹色の目の少女。
 銀の家系。
 死を招く歌声。
 イモータル……。
 異形成腫活化病の発生に関与していると思われる様々なキーワード。全ての謎を一つにつなぐ小片。それらがついに出揃った。
 ――虹の眼の少女が運んできた女性。グリゼルダ・アルジェント。アムルパーレの都市伝説――死を招く歌声の主。今、なんの因果か彼女は僕の寝室にいる。
 死を招く歌声が消えたことで帝都になにが起こるのか。あるいは起こらないのか。鍵となりそうなのはロミーナ姉さんの言葉だ。
 いつかロミーナ姉さんは言っていた。『歌声を拒否したから見放された者になった』と。
 もし……。もしも……だ。
 死を招く歌声によって異形成腫活化病の発症が抑制されていたとすれば、それがなくなった今は……。
 ……いや。闇雲に悲観するのはよそう。せっかくローリーの肉親が助かったのだから、素直に喜んでおけばいい。
 とにかく、今夜はもう寝よう。明日になれば、虹色の目の少女から詳しい話を聞かせてもらえるだろう……。


 ――どこかで誰かの声がする。絹を裂くようなその声は、夢の中をさまよっていた僕の意識を一気に覚醒させた。
 飛び起きる。頭を振って周囲を見回す。そこはいつもの寝室でなく、居間にある長椅子の上だった。寝室は虹色の目の少女とグリゼルダが使っている。
 いや。それよりも――。
 さっきのアレは間違いなく悲鳴だった。甲高い女性の悲鳴だ。
 今、この家には四人の女性が泊まっている。嫌な想像を掻き立てられ、あわてて椅子から飛び降りた。
 ――そのとき。もう一度どこかで叫び声が上がった。声は外から聞こえてくるようだ。悲鳴が我が家のものでなかったことに安心しつつも、今度は外でなにが起こっているのかと心配になり始める。
 うかつに飛び出さないほうがいいかもわからないが、このままじっとしているのも不安だ。外出用のコートを羽織り、慎重に玄関の扉を開く。
 まず見えたのは黒い毛玉だった。大きな黒い毛むくじゃらの塊が、石畳の通りを転がりながら、すぐ前を横切っていく。
 ――そして。
 それを追ってもう一つなにかが駆けていく。
 透き通った青の塊―――巨大な青の剣。それを携えた逆立つ赤い髪の男――。
「エルメル!?」
「ディノか……!」
 こちらへ視線を飛ばしながらも、エルメルは青の魔剣を振り下ろした。長大化した剣の先端が、今まさに人を襲おうとしていた怪異の体を押し潰す。あの黒い毛玉は見放された者だったのか……。
 エルメルががっくりとひざを着いた。その上半身には包帯が巻かれ、片足が石膏で固められている。かなりひどい怪我をしているようだが……。
「俺のことはいい。それよりディノ。まだ来るぞ……!」
 うなり声のように低い風の音が聞こえ、辺りが一瞬だけ影で覆われた。なにか大きな者が上空を通過したようだ。苦しげにうめきつつ、エルメルが上方をにらみつける。彼の視線を追って僕は愕然とした。
 見たこともない大きな怪鳥が、アムルパーレの空を旋回していた。よく目を凝らして見ると、怪鳥は人の服を着ているようだった。まさかあれも見放された者なのか。異形成腫活化病にかかった人が、同時に二人以上も現れるなんて……。
「どうなっているんだ、これは……」
「俺が聞きてぇよ。あいつら、俺が入院してたトコにいきなり突っ込んできやがった。おかげで朝からサービス残業だ。こっちはあちこち折れてるってのによ。イテテッ」
 青の魔剣を構えようとするエルメルの口から白い息がもれた。
 ――いや。それはエルメルから発せられたものではなかった。気づくと彼の背後には白いもやが広がっていた。
 湿った白い空気が怒涛のように押し寄せてきて、瞬く間に一帯を呑み込んでいく。視界がもやで埋め尽くされ、なにも見えなくなる。
 これは――――霧か?
 どう考えても自然発生したものとは思えない。これが人為的に発生させられたものだとしたら、見放された者の異能を使ったか、もしくは――。
「危ないところでしたね」
 甲高い声で誰かが言った。
 霧のカーテンをかき分けて現れたその人物は、やはり虹色の目の少女だ。
 少女の右手には透き通った紫色のナイフが握られている。紫の魔剣……か。恐らくあれが霧の発生源なのだろう。
「この霧が街を包んでいる間、見放された者は活動できません。安心してください」
 冷静な声で虹色の目の少女が言った。霧の狭間に浮かんだその姿を見て、エルメルが少しだけ微笑んだ。
「久々だな、嬢ちゃん」
「ご無沙汰してます」
 見放された者を討ち滅ぼす『神の剣』の噂がささやかれ始めたのは三年前。僕よりも先に魔剣を手に入れていたのだから当然といえば当然だが、やはりこの二人はお互い顔見知りのようだ。
「グリゼルダはもう目を覚ましたのかい?」
 僕が尋ねると、虹色の眼の少女はうなずいて答えた。
「起きてすぐは混乱していましたが、とりあえず落ち着いたようです。今はクレールとロミーナさんが応対しています」
「ああ、そう……なのか……」
 大変だ。僕が事情を説明するより前に、早くも混沌とした状況になってしまっているようだ。急いで戻らないと収拾がつかなくなる。
 虹色の眼の少女を連れて家へと向かう。こちらの込み入った事情を察してくれたのか、エルメルは僕が目配せしただけで一緒に来てくれた。足が石膏で固められていて歩きにくそうだったので肩を貸そうとしたが、それは断られた。胸骨などが折れているせいで、肩を借りるだけでも相当に痛いらしい。



続きは鋭意作成中です・・・
 
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